ESG

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KPMG FAS

正解がないからチャレンジする。
道がないからパイオニアになれる。

なぜM&Aや事業再生の支援に強みを持つKPMG FASが、ESGに力を注ぐのか──。その疑問に、ESG領域の最前線で活躍するパートナーがお答えします。

KPMG FAS

吉野 恭平Kyohei Yoshino

ディールアドバイザリー
執行役員・パートナー
KPMG サステナブルバリューサービス・ジャパン
公認会計士

あずさ監査法人にて6年間監査業務に従事した後、2007年にKPMG FASに転籍し、トランザクションサービスにて多くのM&A案件に携わる。また2年間、KPMG米国ニューヨーク事務所に駐在し、クロスボーダー案件も多数手がける。著書に『実装CVC 技術経営から戦略・財務リターンまで』『プライベート・エクイティとESG』(いずれも共著)など。趣味はスポーツ観戦と読書。

「企業の収益性」と「社会の持続可能性」の融合へ

──現在の、企業経営におけるESGの位置づけについて教えてください。

ESGとはご存じのように、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字に由来する言葉です。企業経営において、この「E」「S」「G」を重視すべきだ、という考え方が、世界的に広がってきています。
これまで企業は“稼ぐこと”を第一に掲げ、売上や利益などの財務パフォーマンスを伸ばすためにはどうすれば良いかにフォーカスしてきました。しかし2015年に国連において、持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals(SDGs)が掲げられたことを契機に、世界規模で「企業活動においては環境・社会への配慮が不可欠だ」という考え方が拡大しました。企業においてサステナビリティが重要な経営課題であるとの意識が急速に高まり、中長期的な企業価値向上のためにもESGへの取組みが急務と考えられるようになりました。
以前は、「会社は株主のもの」という考え方が主流でした。それがサステナビリティの重要性が高まるにつれ、企業には株主や投資家のみならず、従業員、顧客、取引先から、さらには地域社会に至るまで、あらゆるステークホルダーへの配慮が求められるようになり、「会社は社会のもの」と考えられるようになってきました。今は企業には、事業活動を通じて収益を上げながら社会の持続可能性向上に貢献するとともに、得られた収益の一部を持続可能性促進のための投資に振り向けていくことが期待されています。
少し難しい話にはなりますが、“ESG格付”が悪化すると、株主資本コストが高くなるとの研究結果もあります。つまり利益キャッシュフローが一定であれば、その分だけ企業価値が低下することになります。要するに、ESG格付が低いと、市場では経営リスクが高いと見なされる時代となったのです。
そうした時代の大きな変化を受け、KPMG内においても「企業の稼ぐ力」と「社会の持続可能性」をどのように融合していくかについて、企業にアドバイスすることが求められるようになったわけです。

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──収益性の向上とサステナビリティは、本当に両立するのでしょうか。

もちろんESG・サステナビリティ経営は容易なことではありません。企業がESG・SDGsという理念だけのために、利益を度外視して動くことはありえません。そうではなく、経済合理性を確保しながら、環境・社会課題の解決と成長との両立を図っていくことが必要です。つまりESG経営とは、ESGのみに主眼を置いた経営ではなく、成長戦略の一環として「ESGのレンズ」を通した意思決定を行うことに他なりません。地球環境や社会の課題解決を、長期的な価値向上を目的とした企業経営と結びつける「戦略」こそが重要であり、私たちKPMG FASに期待されているのはまさにその点なのです。

かつて2000年代には、CSR(企業の社会的責任)という言葉が流行しました。ですがCSRとはあくまで本業とは別の社会福祉活動であったため、CSRに取組むとコストが増えるという見方をしている日本企業がほとんどでした。そのため景気の良い時期は活発だったCSR活動も、2008年のリーマンショックを契機に一気に下火になってしまいました。当時は、「企業の収益力向上」と「社会の持続可能性」は両立しない、とみなされていたのです。それが今では両立させることを求められているのですから、大きな意識の変化といえるでしょう。

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ESG視点での企業価値向上の取組みを支援

──KPMG FASでは、具体的にどのようなサービスを提供しているのですか。

これまでKPMGジャパンでは、メンバーファーム全体で人員体制の強化とともに、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)関連サービスの拡充を図ってきました。具体的には、①サステナビリティレポーティング支援(情報開示)、②トピック別の課題対応支援、③企業価値向上支援、の3つの領域をコア・サービスとして提供しています。

① サステナビリティレポーティング支援

EUにおける企業によるサステナビリティ報告に関する指令(CSRD:Corporate Sustainability Reporting Directive)や、米国証券取引委員会(SEC)による気候関連リスクに係る開示規則などの各種開示基準への対応について、要開示項目の特定、開示情報の収集方法の検討、開示ドラフトの作成などの支援を行っています。
またTCFD(Task force on Climate-related Financial Disclosures:気候関連財務情報開示タスクフォース)などのフレームワークに沿った開示内容の検討を包括的に支援しています。この領域は現在の日本企業にとって、一番の関心ごとと言っていいでしょう。

② トピック別の課題への対応支援

気候変動、脱炭素化、人権対応、生物多様性、循環経済、人的資本といった個別のトピックに関する、専門家を中心としたアドバイザリーサービスを提供しています。当初は気候変動対応が多くの企業にとっての一番の関心ごとでしたが、加えて最近は人権対応、生物多様性などに注目する企業も増えています。

③ 企業価値向上支援

サステナビリティ課題への対応度合いが企業価値や格付に影響するということが共通認識となった現在では、特にM&AやIPOを目指す企業にとっては、サステナビリティ課題への感度を高め経営課題として対応することが不可欠であるといえます。投資先に対するESGデューデリジェンスによる課題特定、ESG項目を反映したの実施、その後のサステナビリティPMI(Post-merger Integration)課題への対応の推進(ESGバリューアップ)などのサービスを通じて、企業価値向上の取組みを支援しています。

上記のうち③の「企業価値向上支援」が、私たちKPMG FASの主要領域となります。従来のM&A案件では、財務パフォーマンスを特に重視するデューデリジェンスが中心でしたが、現在はESG視点で企業が持続可能であるかどうかを検証する、といった案件が非常に増えています。

一方、KPMGジャパン全体をあげてのESG領域へのさらなる注力のため、2021年には組織横断的な「KPMGサステナブルバリューサービス・ジャパン(SVJ)」というチームも誕生し、私はコアメンバーのひとりとしてこの組織に参画しています。

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──ESG関連サービスにおけるKPMGならではの強みとは何でしょうか。

KPMGジャパンでは2004年にKPMGあずさサステナビリティを設立し、いち早くサステナビリティ関連サービスを提供してきました。その経験の蓄積は大きな強みとなっています。また、例えばメーカーであれば気候変動、脱炭素、サプライチェーンなど、小売りであれば人権、カスタマーレスポンシビリティなど、ESGの課題は業種によって大きく異なるため、クライアントの業種別にチームを編成している点も強みでしょう。
さらにESGへの取組みは特にヨーロッパで先行しているため、KPMGのグローバルネットワークを通じて世界の最新の情報を入手しクライアントに提供できる点も、私たちの優位性につながっています。

KPMG FAS自身のESGへの取組み

KPMG FASでは、10年ほど前より複数の大学院において寄付講座を実施しており、学生もしくは社会人向けに講義を行ってきました。この活動はパートナーなど一部のメンバーが行ってきましたが、多くの従業員がCSR活動に興味を持ち、積極的に関与してもらうことを後押しするために、2022年にFAS Community Impact(FCI)チームを設立しました。目的は、KPMG FASの従業員がCSR活動に参加し他の従業員と交流する機会を得ること、またCSR活動における能動的な行動を通じて組織へのコミットメントを高めることです。
現在は、募金、インクルージョン・ダイバーシティ&エクイティ(IDE)、プロボノ(社会的・公共的な目的のために、職業上のスキルや経験を活かして取組む社会貢献活動)、自然環境保全といった4領域にフォーカスした活動を行っています。
またKPMG FASらしい取組みとしては、ある高校に向けて、高校生のキャリア教育の礎となるような講義プログラムの提供なども行っています。

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これから求められるのは「課題発見力」

──世の中の今後の動きについてはどうお考えですか。

例えばM&Aにおいては、ESG感度の高い会社は既に、財務や法務のデューデリジェンスに加えて、ESG観点でのリスク検証を行っています。投資先企業がESGの観点から問題がないかを精査し、それをバリュエーション(企業の価値評価)をはじめたとした投資の意思決定に反映させます。もちろん、デューデリジェンスやバリュエーションだけで終わりではなく、M&A実行後も投資先企業と一緒になってESG課題への取組みを推進していくことが求められます。こういった取組みが広く浸透していくことで、より多くの企業がESG視点をさらに意識するようになるという好循環が生まれるのではないでしょうか。
現状では、「ESG視点での検証=リスクフォーカス」という考え方が主流です。ESGの登場によって、企業が考慮しなければならないリスクの範囲が拡大し、企業側の負担が増えてしまったのは事実です。ですが今後は、「機会や価値の創出」という視点も浸透していくと良いと思っています。つまり、「ESGに真剣に取組んでいる企業だからリスクが低い」という視点に加えて、「ESGに力を入れているからこそ企業価値が高い」という視点が浸透していくでしょう。ESGの観点で優れている企業の製品やサービスであれば、競争力のあるものになるでしょうし、人権に配慮している企業であれば、人材の採用力も上がるでしょう。ESGへの取組みが、その企業の機会や価値の創出につながり、競争力が磨かれていくようになるはずです。
クライアントに伴走しながら、私たちもそうした展開をリードしていきたいと考えています。

──学生の皆さんにメッセージをお願いします。

ESGやSXは、ここ数年で最も注目を集めているホットな領域です。新しい分野なので、誰もが考えながら走っている状態。前例がないという点が一番の特徴、とも言えるでしょう。ですから、経験や知識以上に、新しい発想や考え方が重要となる分野です。
コンサルタントに求められる力として、「課題解決力」がよく挙げられます。もちろん課題解決力は重要なのですが、この新しいESGの分野ではさらに、課題そのものを見つけ出す力、すなわち「課題発見力」ではないでしょうか。発想を変えること、柔軟な考え方やものの見方、傾聴力が問われてくると思います。またESGという分野の性格上、当然ながら社会に貢献したいという想い、利他の心も必要とされるでしょう。答えのない領域に自ら挑戦しようとする積極性も不可欠です。
働くことを通じて、社会に対してどのような貢献をしていきたいかを考えている方は、ぜひ私たちと一緒にESG・サステナビリティ関連業務に取組んでみませんか。前例もない、正解もない世界だからこそ、誰にでも先駆者になれるチャンスがあります。

※記事の記載内容は、インタビュー取材時点のものとなります。